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雑記

「旧ソ連」と「新ソ連」

Flag of Soviet Union. Photo is taken by philster02188.

ニュースや政治経済、歴史関係の番組を見ていると、「旧ソ連」という言葉が使われることがある。テレビに限った話ではなく、新聞でも、書籍でも、その表現は見かける。さらに言えば、これを書くのに使っている漢字変換ソフトにも、「旧ソ連」で登録がなされている。1922年から1991年まで続いた国家の略称として、広く用いられている。

だが、この呼称は奇妙だ。敢えて「旧」をつける合理的な理由が無いのだ。

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一般的に、過去に存在したが、現在は存在していない国名に「旧」をつける例はほとんどない。例えば、日本周辺で例を挙げてみると、

「満洲国」とは言うが「旧満洲国」とは言わない。

「ロシア帝国」とは言うが「旧ロシア帝国」とは言わない。

「大韓帝国」とは言うが「旧大韓帝国」とは言わない。

「清朝」とは言うが「旧清朝」とは言わない。

「ベトナム共和国(南ベトナム)」とは言うが「旧ベトナム共和国」とは言わない。

しかし、「ソ連」とも「旧ソ連」とも言う。不思議な現象だ。

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「旧」がつく言葉をいくつか挙げると、「旧暦」「旧正月」「旧式」「旧姓」「旧世界」などがある。これらから類推して「旧」を日本語に置き換えてみると、「かつての」が最もしっくりくる。

「かつての(かつて使っていた)暦」「かつての正月」「かつての方式」「かつての姓」「かつての世界」

これらはなくなってしまったわけではない。新しいものが現れたから、相対的に古いものになったということだ。旧暦を使うのを止めたからといって、旧暦がなくなってしまうわけではない。新暦を使うようになっただけで、旧暦はそこに存在している。旧正月も、旧式も、旧姓も、旧世界も同じ。

だから、「旧満洲国領」「旧満洲国民」「旧満洲国皇帝」はおかしくない。満洲国がなくなったあとでも、その領土であった土地は存在し続けているし、かつて満洲国民であった人たちも存在していた。かつての皇帝もその後長いこと生きていた。

しかし、満洲国自体は消滅したのだから、「旧満洲国」とは言わない。あえて「旧」をつける必要もない。「旧」などつけなくても、みなその国はもう無いことを知っている。

ソ連も同じ。「旧ソ連領」「旧ソ連構成共和国」「旧ソ連国民」「旧ソ連大統領」はソ連消滅後も存在し続けている。「旧ソ連勢力圏」「旧ソ連経済圏」も同じ。「かつてのソ連勢力圏」であり「かつてのソ連経済圏」であって、ソ連がなくなって勢力圏、経済圏ではなくなったが、そういう地域は現在でも存在している。地上から消えてしまったわけではない。

「旧ソ連」。やはりこれだけはおかしい。「かつてのソ連」、それは今はもうないのだから。

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しかし、なくなってしまった国名に「旧」をつける稀有な例が無いわけではない。泥沼の内戦を経て解体されたユーゴスラビアだ。

1943年に成立したユーゴスラビア民主連邦(その後、ユーゴスラビア連邦人民共和国、さらにユーゴスラビア社会主義連邦共和国に改称)と、1992年に成立したユーゴスラビア連邦共和国とを区別するために、前者を「旧ユーゴスラビア」、後者を「新ユーゴスラビア」と呼ぶことがある。後者は、セルビアとモンテネグロの二国のみからなる連邦共和国であるため、前者とは明確に区別する必要があるからだ。

この場合、「旧ユーゴスラビア」という呼称は「その後もユーゴスラビアという国家は存続していたが、現存したのはその一部で区別可能な別の国家、旧がつくのは消滅したかつての国家」という意味を強く含んでいる。

要するに、「新」として区別する対象が存在するときは、なくなった国家名に「旧」をつけても意味が通るということだ。

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「旧ソ連」という呼称がマスメディアで広く用いられるのはなぜか。単純に、マスメディア関係者が何も考えず、無意識に、無自覚のまま、「旧ソ連」という言葉を使い続けている可能性も否定は出来ないし、個人的にはそう思いたいところだ。

しかし、ユーゴスラビアの例から、「旧ソ連」に対して「新ソ連」が存在するのがその理由ではないのか、そう思えてならない。単に「ソ連」と呼ぶと「旧ソ連」なのか「新ソ連」なのかを区別できないから、わざわざ「旧」をつけて厳密に呼んでいる、というわけだ。

では「新ソ連」とは何か。1991年まで続いたソビエト連邦を実質的に継承したロシアを指すのだろうか。それとも独立国家共同体(CIS)を指すのだろうか。それ以外の別の何かを指すのだろうか。まさか、ゴルバチョフが大統領制を導入する以前を「旧ソ連」、それ以後の短い時期を「新ソ連」と呼ぶわけでもないだろう。

なお、現在使用している漢字変換ソフト「IMEスタンダード」には「新ソ連」も登録されており、ストレートに一発で変換できる。歴史的に存在していたのか、今この瞬間も継続して存在し続けているのかはわからないが、辞書登録されているのならば、やはり「新ソ連」は存在するのだろう。

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